2010年2月11日木曜日

京都OHBL奥田浩子のBeauty Memories      ”最期のリップ”



「浩ちゃん、おばあちゃんのこと綺麗にしてくれて、ありがとう。さっき誰もいない時に、こっそりキスしといたんや。」と私の耳元で、祖父がそっとささやいた。胸がじんとなり、悲しみがこみ上げた。

今から26年ほど前、私の母方の祖母が亡くなったときの思い出である。
ちょうど私がこの仕事を初めて少したった頃で、亡くなった祖母の化粧を頼まれた時であった。
急に化粧をすることになったので、きちんとした道具もなく、祖母が愛用していた昔ながらの化粧台から、ごそごそと取り出した中に、ほこりにまみれた口紅が一本出てきた。自分としてもあまり記憶にはなかったが、きっと祖母がよく使っていたのであろうと、その口紅を祖母の唇にのせ、祖母はあの世へ旅立って逝った。

今思えば、その口紅の色は、とても祖母によく似合っていた色だったように思う。きっと、その口紅の色をみて、美しかった祖母の思い出がよみがえり、祖父も気持ちが一瞬若返ったのだろうと、なんともあたたかく、せつない気持ちになった事を覚えている。

また、今から10年ほど前、仕事先で大変お世話になった才色兼備の女性マネージャーが39歳という若さでこの世を去るという、大変悲しい出来事があった。お葬式に参列させていただき、横たわる彼女に最期のお別れをしようとした時、彩やかなフューシャピンクの色が目にとびこんできた。
いつも彼女が愛用していた口紅が美しく唇を染めており、その色を見た瞬間、号泣したのを覚えている。
私は心の中で、何度も何度も「よかったね、一番きれいにみえる色をつけてもらって、本当によかったね。」と、くり返した。

色をあつかう仕事をとおして、いつも色と人間の関係は、とても大切だと感じている。自分自身を美しく、自分らしく、彩ってくれる色とはどんな存在なのか?
すべてに色がある世界に生きて、どのようにつきあっていくべきなのか?

私もあの世へ旅立つときには、私らしい色を身にまとって逝きたいものである。
最期の口紅が、私らしくみえる色であり、また、看とってくれた人たちが、私をそのままに思い出してくれるような色であってほしい。

自分自身の人生が
自分らしく終結できる色として。
そう、最期の色として。

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